【コラム】動物園の中の小さな絶滅

オセロットという動物をご存知でしょうか。
日本の動物園に通う人々の間では有名なのですが、一般的な認知度は低いそうです。
かく言う自分も、オセロットという動物についてそこまで詳しいわけではありません。
知っているのは、オセロットの『メロディ』という個体がかつてズーラシアに居たということだけです。
その『メロディ』は、2020年9月15日の朝に死亡しました。
2020年の時点で日本最後の個体であり、これにより日本の動物園でオセロットを見ることは出来なくなりました。

オセロット (よこはま動物園ズーラシア) 2018年5月26日

日本で最後の個体は各地に点在しており、今はもう見られない種も多くいます。
例えばここ数年だけでも夢見ヶ崎動物公園のヘラジカ、金沢動物園のプロングホーン、ガウルシロイワヤギ徳山動物園セグロジャッカルなどが居なくなりました。他にも鳥類などを含めたら枚挙に暇はありません。
少なくともこの先数年、あるいは数十年、種によってはずっと、彼らを日本で見ることは出来ないでしょう。
彼らは日本の動物園において絶滅したのです。

「絶滅危惧種」という言葉をよく耳にしますが、実際にはあまりピンとこない方が多いと思います。
それは自らの良く知る種が実際に絶滅した経験を持つ人が少ないからです。
ですが日本の、それも動物園という小さな枠組みの中で見てみれば、絶滅は確かにそこにあります。

雨の日のオセロット (よこはま動物園ズーラシア) 2017年11月23日

自分がオセロットの『メロディ』と会ったのはたったの4回です。
ですがその数回だけでも、それこそ1回だけであろうとも、オセロットという動物が非常に美しい種であることは分かりました。
それは恐らく今まで『メロディ』と会ってきた方々も同じだろうと思います。
それくらいに彼女は美しい個体でした。

しかし、自分はそれ以上のことをほとんど知りません。
オセロットという種のおおよその形、姿、大きさは分かりました。ですがそれはあくまで『メロディ』という個体であり、彼女が他のオセロットに比べてどのような個性を持っていたのか、同種との関係性はどのようなものなのか、子どもはどのような姿なのか、分からないことだらけです。
もっと言えば彼女の性格や鳴き声、食事の様子ですら分かりません。ただ「オセロットの『メロディ』は美しかった」というその一点のみが確固とした印象として心に残っています。
もっと他に知ることは出来なかったのか悔やむばかりですが、それでも自分はまだ幸いだと思います。
なぜなら、現時点で『メロディ』に会えなかった人たちを含め、これから先の世代の人たちがオセロットに会える可能性はとても低いのですから。
彼らが動物園を通じてオセロットという種を知る機会は失われたのです。
見るどころか、知る機会すら失われる、動物園における種の喪失とはそういうことです。

彼ら、彼女らの血を繋ぐことは出来ませんでしたが、それでも彼らの姿を見た自分たちにしか残せないものはきっとあります。
去っていった彼らのためにという感傷だけではなく、確かに存在する次代のためにも残せるものは何か、動物園に通っていると、そういった世代と命の責任を感じずにはいられません。

2020年9月29日 | snow

関連性のある施設

関連性のある動物

関連性のある個体

『メロディ』雌・1996年5月15日 生まれ