【今日の動画】ときわ動物園 と 生息環境展示

【今日の動画とは】
トップページでランダムに表示される動画の中から良さげなものをピックアップして話を広げてみようというコーナーです。

今日の動画はハヌマンラングール (ときわ動物園) 2018年5月19日です。

「日本にここだけ」が枕詞の動物は各地に点在していますが、山口県のときわ動物園に居るこのハヌマンラングールもその一種です。
インドの神話「ラーマーヤナ」に登場するハヌマーン神にちなんで名付けられたこのサルは、ヒンドゥー教では神の使いとして保護されているそうです。

長い尻尾と艶やかな毛並みが特徴的ですが、特に自分が好きなのがその配色です。
黒く染められた顔は表情が読みづらく、神秘的な雰囲気を感じさせます。耳の黒とのコントラストも可愛らしいですし、手から腕へのグラデーションも美しいです。

そして美しさを語る上で欠かせない重要な要素がもう一つあります。それは背景です。
彼らの魅力を、木々や緑が最大限に引き立たせています。

これはときわ動物園という動物園の在り方にも深くかかわってくるのですが、この動物園の特徴として「大型動物の不在」と「生息環境展示」が挙げられます。

自分はこの動物園に初めて来た時に、「十分な飼育環境が提供出来ないのであれば大型動物は飼わない」、「美しい展示とは動物種に左右されるものではない」という矜持が展示から感じられて、いたく感動したのを覚えています。
例えば多くの動物園で飼育されているシロテテナガザルも、この動物園では主役です。
檻も柵も無い放飼場の中を、シロテテナガザルが縦横無尽に飛び回り、はるか高い樹上でくつろぐ様子を観察することが出来ます。
まるで森の中でシロテテナガザルに遭遇したかのような没入感は、放飼場の力によるものです。
動物の行動と美しさを最大限に発揮する展示こそが「生息環境展示」なのです。

ここから先はかなり私見に拠ります。
かつて旭山動物園が「行動展示」を提供し来園者に衝撃を与えましたが、「生息環境展示」はその先を行くものだと自分は考えています。
行動展示は類まれなる発想と観察眼、経験と技術に裏打ちされた素晴らしい展示ですが、肝心の来園者が何を見て喜んでいたかと言うと、それは「動物の行動に則したショー」を見る感動に留まるのではないでしょうか。
それまで見られなかった動物たちの動きを視覚化したからこそ、行動展示には驚きと革新があったのです。

生息環境展示は、そういった動物たちの行動を引き出しつつ、さらにその先の「野生下における彼らの姿」を来園者に想起させます。
そしてこれは断言出来ますが、動物たちが最も美しい姿は野生下にあります
価値観は人それぞれではありますが、少なくとも生息環境展示とはこういった確固たる美意識によって成り立っています。
動物にとって何が最善か、といった話ではありません。それらは裏方の話です。これは来園者に何を見せて何を伝えたいかという話です。
(野生下における姿その全てが美しいという話とも少し違うのでご留意ください)

現在、多くの動物園では掲示物などで言葉を尽くすことで、来園者は彼らが動物園に居る意味や飼育状況を知ることが出来ます。
そういったプロセスも来園者のリテラシーを高める上で大切なのですが、「美しい展示」とはそういった言うなれば「憂い」を来園者に与えることなく、よりシンプルに「動物が住むこの世界は美しい」という感動を与える力を持っています。

「この美しい光景を守り、彼らの生活の質を向上させ、より多くの人にこの感動を伝えるために動物園の存続にご協力ください」と言える動物園こそが、これからの時代を担う動物園なのではないかと思います。

2020年9月6日 | snow

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